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「喋るくまモンのぬいぐるみ、お前が持っていったのか!」

 

心臓がびくんとはねた。2016年9月、別れた相手に送りつけたLINEが、いきなり視界に飛び込んだ。人との、とあるやり取りを思い出すためアプリ内でワード検索をかけていたら、何故か4年前の全く関係ない元恋人とのやり取りが釣れてしまった。

 

「郵送で送れ!返せ!早く!」と矢継ぎ早に催促をし、「元々俺のだよ」と冷静に言い返されて、私の勢いは見るからに失速していた。

その丁度1ヶ月後には「くまモン送った?」と私から送信し「(^_^)」とだけ返信があったようだった。軽く流されている。何故こんなにも喋るくまモンのぬいぐるみに執着していたのか、全く覚えてない。我ながら気色悪い。

とにかく、くまモンは元々彼ので、でも彼がうちに来た時からくまモンもずっと一緒だった。一緒に変なことばを喋らせて遊んで笑った。

どうして連れて行っちゃったの、どうしてお気に入りのマグカップは、置いて行ったの。

 

そのまた1ヶ月後に「お前の高校の卒業証書を見つけた。そっちに送るからこっちにくまモンを送れ。」と誘拐犯みたいな交換条件を出して「くまモン…?」と返ってきていた。思い出した。その返信が無性に腹立たしかった。お前は私からくまモンを奪って、それも忘れてしまったのか。どんなこと言わせて遊んだのか忘れてしまったのか。あんなに笑ったのも、忘れてしまったのか。腹が立ったので卒業証書は送らずじまい、それから、連絡もとらずじまい。

現在のLINEのアイコンは、大勢に囲まれて、屈託ない笑顔でもともと細い目をさらに細くさせて。

そうだ、人に好かれる人だった。言葉数は少ないけど、なんとなく信頼されて、上手くやっていく人だった。その場その場で、困った時に絶対助けてくれる人が現れて、懐かれて、頼られて、優しいけどポリシーがあって、頑固だった。くまモンのやりとりの3年後結婚した。私の誕生日パーティーで、サプライズケーキを運んできた、細身で、一重瞼の店員さんと。ぱっちり二重の巨乳好きだったが、愛にそれは関係ないのだと、世界で一番最初に証明したのがこいつだ。

 

 

愛される人には罪がないから腹立たしい、優しくて、優しいつもりの人は残酷で、そういう人から差し伸べられた手を、私はいつもうまくとれず、妬んでいることを隠し通すことができなくて、情けなくて、惨めで、そうしているのが自分には似合いすぎて、こんなんじゃ、と言いかけて口を噤む。

愛されていた痕跡と、愛されなくなった痕跡を同時に見つけて、少し安心して、でも胸が詰まって、喉からなにか変なのがせり上がるのがわかる。少し寝て、朝起きて、自転車へ乗って、仕事へ行って、帰り道ひとりで、