未だ苦しい

 

30歳を少し過ぎた男性とその親にしては少し若めの母親が来店し対応したのだが、30歳の男は自分の契約なのに押し黙り、その母親がどんどん話を進め(進め、と言っても自分が聞きたい事を常に優先するため手続きの進行はできない)、息子の重要な暗証番号を自分のノートに書かせ、デザインにまで口を出す始末で、息子も嫌がるそぶりはなくむしろ頼りきりなように見えた。

立場上、こちらとしてはあくまでも契約名義人への説明と承諾が必要なのだが、本人はこちらが説明している間、どこかを見ているようでどこも見ていない目をしており、生返事で、その代わり母親が横から「はい、わかりました」と返事をするのだった。

「息子と母親」という関係性の顧客には正直ありがちなパターンで、それはそれは見慣れたものだが、私はこういった関係性の親子の対応が、どんなハードクレーマーよりも苦手なのだ。

理不尽なパターンで言えば、名義人の息子に対するこちらからのアクションを阻害する母親は最悪だ。名義人(息子)への質問に割って入り、ずれた回答をしたかと思えば、何故かむきになってヒステリックに反論をしてきたりする。めんどうなのだ。こういった人種は。

(「息子に色目を使ってる」という意味合いの罵倒を受けた事もある。本当頭おかしいと思う。)

 

 

 

反吐が出る程に不快になる理由がある。こういった子の選択・意思を奪う親に身に覚えがあるからだ。何を隠そう、私自身が毒親生まれ毒親育ち、立派なアダルトチルドレン。上にあげたような「子」に、幼い頃の自分を見てしまい、めちゃくちゃな気持ちにさせられるのだ。年齢なんて関係なくて、呪いはとけない。

 

 

 

好きな服を買ってやると連れられて行った洋服屋で、目を輝かせながらブルーやピンクのスカート、ラメが入ったパーカー、キャラクターものの鞄、リボンがついた靴下を選んでは「お前には似合わない」「そんなものは馬鹿の着るもの」「それはアイドルのように可愛い子が着るもの」「コンビニでたむろしているような輩が着るもの」「流行に乗るのはださい」

なにかと理由をつけて、私の希望はすべて却下された。その後は決まって、母親が私に着させたいコーディネートの発表を行う。

ネイビーやカーキ、ベージュの、もしくは深緑色の落ち着いたコーディネートの押し付けられて「ほら、やっぱりこの方がお洒落」「お前によく似合ってる」「大人っぽい、こっちの方がずっと賢そう」

果てには母親も同じような洋服を選び「ほら、お母さんと一緒」と笑うから、何か言いたくてもうまく言えなくって「そう、こういうのが一番欲しかった」と答えて、母親は心から嬉しそうに笑って買ってくれるのだった。お決まりだった。今よく思い出しても涙が出る程不快で、良くも悪くも、自分が形成されるにふさわしい記憶だと改めて思う。

 

ラメに憧れてた。リボンもつけてみたかった。フリルも。クラスの女子で私だけ、流行ってるブランドのキャラクターの名前を知らなかった。

母親のコーディネートは、実際に評判が良かった。同級生にはいないセンスで「お洒落だね」とよく言われていた。そのたびに「これでよかった」「これが欲しかったんだ」と思う事が出来た。

でも、日曜日に友達と服屋へ来たら、何を手に取ればいいかわからなかった。

母親の前ではどんどん無口になった。何か言えば、100倍何か言われることの恐怖や苛つきが、何も言わせなかった。

 

「お前はこうだからこれがいい」と、私の気持ちに反して母親が決めつけるたびに、それに対する反抗を少ししてみると、過剰に、正直異常に嘆き悲しむ母親が気持ち悪くて、怖くて嫌いだった。そう思ってから無抵抗に、ただ言われるがまま、曖昧な態度である事が平穏に過ごせる手段と学んだ。「私はこう思う」を「違う、お前はこう、だからこれがいい」と頭ごなしに言われた時のあの思考が曇っていく感じ、脳みそから水分を奪われて、思考が止まって、無関心になっていって「母親をやり過ごす」が目的に切り替わる瞬間、あの苛立ち、それを超越して脱力して無抵抗になっていく感じ、その場を切り上げたくて全部どうでもよくなる感じ、自分の事なのに自分で決められない歯痒さ、理不尽さ、どうして他の人は自由にしているのに私だけという苦しさ、母親の言葉が触れたもの全部手放したくなる衝動、逃げたい気持ち、そういった当時のもうむちゃくちゃな感情が、冒頭のような親子を見ると勝手に呼び覚まされる。だから苦手だ。当然プロなので顔にも態度にも出さない。

ただただ悲しくなるのだ、目の前の選択できなくなった大人を見て。好きなもの買って好きなもの身につけていこうよと心から思う。

選ばない、選べないというのは死んだも同然だ

書いててぼろぼろ泣いてしまったので終わり

 

本当はあと3000字下に続きがあったのですが、またの機会にします すみません

感情に任せると言葉より文字の方が上手くいく気がしてるのですが、技術が追いついていないのがはっきりしますね 二重に落ち込んじゃいました