日記

今日も自宅待機を命じられた。

体調がなんともない以上、そうする義務もないがやはり寝て過ごしてしまった。

寝て過ごしたというか、大の字になって「あー」とか「うー」とか言って半日が過ぎた。

 

16時ごろになってようやく決心し、風呂にも入らずスーパーへ出掛けた。頭がくさい気がしたのでキャップを被った。汚い体でお気に入りのTシャツを汚したくなかったから、2軍のTシャツを着た。

あーとかうーとか言っていた奴がどうして立ち上がれたのかといえば、葡萄が食べたかったからだ。どうしても食べたかった。旬に季節の果物を食べたくなるほどに、わたしは真っ当な社会人になってしまったようだ。社会の歯車、働き蟻、労働兵隊として、真昼間(16時は真昼間ではないことは承知している)にスーパーへ行ける、今なら料理をやる気もある。この機会は逃せない。匍匐前進にて、蜜まで真っ直ぐ進め!

 

えっほえっほとやってきた最寄りのスーパーは、日曜日の昼下がりということもあり盛況だった。鮮魚コーナーで品定めをする中高年夫婦のご主人の、ばかでかい麦わら帽子に目を奪われた。本格的な中華鍋くらいあった。冗談抜きで15人前は炒飯を作れるのではないだろうか。どこで買ったんだろう。あいみょんだったら何に例えるかねと心の中で喋ったら、殺されてしまった。

 

家を出る前にメモ帳へ残した買い物リストを振り返る。

ほんだし

・にんにくチューブ

・ハイター

 

葡萄は?

 

びっくりした。

結果的に、レタス2玉、しゃぶしゃぶ用豚肉200g、プチトマト、わさびチューブ、ハイター、食器用洗剤(キュキュットの泡スプレー。こりゃいい。)、ほんだし、七味、納豆、キムチ、中トロを買って4000円と少しを払った。葡萄は?

 

会計を終えてサッカー台に到着してから葡萄を買い忘れたことに気付き、ものすごい手捌きで購入済みのものをエコバッグに詰めた。葡萄を買いに来たのに葡萄を買っていない事が恥ずかくて、誰に笑われるでも責められるでもないのに、顔を真っ赤にしながら果物の陳列棚へ走った。葡萄を掴みとり、再びレジへ戻った。レジの人に怪しまれるのではないか、走ってしまった為、一瞬でも誰かに万引きと疑われたのではないかと不安だったが、店員さんは一切表情を変えず事務的に会計作業を済ませてくれた。スーパーを出ると程よい疲労感で満たされ、店の前の自販機で500mlの0カロリーコーラを2本買った。

スーパー内で1Lを買え。

 

帰宅し、もはや得意料理に昇格した豚しゃぶと、豚の茹で汁で中華スープを作った。ここで卵を買っていないことに気付いて項垂れた。

気にすんな、1人気ままな独身生活、誰に怒られるわけでもない。結婚なんかして、伴侶に呆れられるのを恐れる生活を送るくらいなら、ぼやっと、忘れものが多いまま死んでいけばいい。自分を励ましながら、レタスをちぎる指には力が入った。

調理中iPhoneのスピーカーでApple musicをシャッフル再生していたら、GARNET CROWの「夏の幻」、B'zの「ゆるぎないものひとつ」が連続で流れた。コナンメドレーなんて入れてないぞと突っ込みを入れようとしたら、その後に流れたのはKissの「Psycho Circus」のライブ音源で笑ってしまった。この曲を入れた心当たりは全くないが、力強すぎるシャウトには爽快な気持ちにしてもらえた。このとき、水で濯いだプチトマトを床に全部ぶちまけてわたしも静かにシャウトした。

もうずっと生きるのがむずかしい。

 

休日に映画を観るのはやめにしようと決めたのに、また映画を観た。驚異的に強い女(というか、神)が戦争を止めて世界を救う話だった。

女のアクションシーンが好きだ。ビームや銃でなく、なるべく素手で格闘して欲しい。悪漢をボコボコにしてやって欲しい。それも一方的にぶちのめして、圧倒的に勝って欲しい。私の代わりに。

買い物や調理ひとつまともにできないのに、闘いの女神に自己投影する。女神さま、わたしもなにかをぶちのめしたい。どれから、誰からやればいいかわからない。

 

プチトマトが口内ではじけて、続けて噛んだレタスの青っぽい香りとともに飲み込んだ。ごおおと雨がうるさくて自転車をしまっていないことを後悔した。

大嫌いな夏も終わりだ。