日記

『日記をつける』という誓いを一日で破綻させ、日付が変わって数時間も経ってから更新する愚か者の私が言うことなんて、もう誰からも信用されないかもしれない。

ちゃんとやろうとするほど、猛烈にダルい。

3か月前に購入してから、ほとんど使っていないノートパソコンの前にどっかりと座り、信じられない程ゆっくりとタイピングしている。というか、ゆっくりとしかタイピングできない。

 

 

今朝は微熱が出て出勤ができなくなってしまい、突如降ってわいた休日を怠惰に過ごしただけだった。

本来なら今日は、職場の後輩から相談された「上司が後輩の残業代をちょろまかしている件」で、上司に抗議する予定だった。後輩からは言いにくい、先輩の私から言うのは正しい。しかも私は「先輩」の中でも強いほう。適任だ。後輩は正しい、心からそう思う。

 

 

こういった役回りを担うことは、今までも多かった。

「私、直接言えないから、あなたから誰々さんに言って!」

女子はか弱いから仕方がない。男子だって気の弱い人はいる。守ってあげなくちゃね。

最初こそ頼られるのが嬉しくて、そのうち自分から言い出すようになっていた。

「私から言おうか」

汚れ役を押し付けられていると気付くころには、いつも後の祭り。

そういえば、私だって嫌われたくなかった。あとから言い出したって遅い。

 

中学の時だったか。ある男子にいじめられている、と泣きついてきた友達に代わって、男子に言い返したら、今度は私が悪口を言われるようになった。友達はとても感謝してくれたし人に親切にした代償なのだから、恥じることはない。私は間違ってない。

あとから、友達とその男子が前から交際していること、私のいないところでは一緒になって私の悪口を言っていたことを知った。

馬鹿正直に、素直に、一生懸命やったけど、結果的に馬鹿にされ、辱められる。私だけ蚊帳の外で、何も知らない。人と関わると、人を信用すると、人のためにやるといつもこうだ。人を簡単に信用しなくなったのは、この頃からかもしれない。

 

その一年後、数々の事件を経て、私は中学に行かなくなった。当時同じクラスに彼氏がいたけれど、付き合っていることはみんなに隠したいという。理由を聞くと「ほかの女子に嫌われたくないから」

当時ガラケーで、パケホに加入してなかったので、このメールの受信に通信料がかかっていたと思うと今でも悔しい。この地の人間はクソばっかりか。

一方で清々しい気持ちにもなった。年頃だもん、モテたいし、学校来ない彼女よりその他大勢の女子からの人気が大事なのもわかる。わかると同時に、なんでわかってやらねばならんのかと憤りもした。

なにより、その時「私と付き合ってると知られると他の女子に嫌われる」と遠回しに厳しい現実を突きつけられたショックと「初彼氏がそんなやつ」というショックで二重で傷付いていた。この悲しみは、当時入り浸っていたインターネット掲示板にぶちまけ、自分よりもうんと年上のお兄さんお姉さんに慰めてもらった。

皆口を揃えてそんな八方美人な奴別れたほうがいい、そいつはくず、ごみ、包茎、他にいいやつがいるよと慰めてくれた。今思い出すと、彼を過剰に貶すことで私の留飲を下げようとしてくれたのではないかと思う。

大人たちに背中を押された私は、比較的穏やかな気持ちで、むしろ「解放してあげる」くらいの口ぶりで別れを切り出した。彼はなぜか別れを渋って、私たちの思い出の地に呼び出してきた。「明日13時にあの場所にきて」と。

 

私たちの家の中間地点には小さなゲートボール場があり、付き合う前よく夜に家から抜け出してこの場所のベンチに腰掛けて喋った。喋ることがないときは、彼が持参したMDのイヤホンの片方ずつ分けて音楽を聴いた。よく聴いていたのはポルノグラフィティケツメイシ175Rだったと思う。今考えると、チョイスがめちゃくちゃちょうどいい。

彼には会いたくなかったし、むしろ引きこもりだったので外へ出たくもなかったけれど、せっかく付き合った人だ。きちんと対面してお別れをしようと、重い腰をあげ、パーカーのフードを深めに被って例の場所へ訪れた。結論から言えば彼はゲートボール場へこなかった。ベンチに腰掛け1時間待ったところで、私と彼の交際を唯一知る友達にメールを送った。「K君きてる?」「K?いるよー」学校行ってんじゃねーか。

よく考えればそうだった。平日の13時に中学生が待ち合わせなんてできるはずない。

そんな時間にこんな所にこれるのは、この地で唯一の不登校児である私くらいだ。

馬鹿にされている。どうせ男子や意地悪な女子とつるんで、素直にのこのこと待ち合わせ場所へやってきて、現れない彼を心配するメールを送っていた私をあざ笑っている。とぼとぼと家に帰る間ずっと、転んでもないのに腕も足も痛くて重かった。思い出せないけれど、泣いたような気もする。

家について布団に包まるなり彼の連絡先をブロックし、自分のメールアドレスを変更して誰にも教えなかった。

半年後誰にも告げずその地を引っ越し、転校した。

 

 

大人になって何かが変わったわけでもない、相変わらず外では社交的に振舞って、年上とも年下とも多分うまくやれてる。相手が言ってほしそうな言葉を探る癖はより研ぎ澄まされていく。信用されて頼りにされるのも悪い気はしない。でも、私から誰か頼ることはない。にこにことシュークリームを差し入れしながら、内心では「お前らなんかと一緒にすんな」と常に憤慨している。馬鹿にされるのが嫌だから、先に馬鹿にする。もしもの時の為、保険をかける。先に留飲を下げておくのだ。

まったくいい性格をしている自覚がある。何をもって「大人になった」なのか。

信頼を裏切られる。馬鹿にされて辱められる。見下されて無視をされる。

そんなときの、足元がぐらついて膝が震えてくる感覚や鼓動の音で頭がいっぱいになって何も聞こえなくなる恐怖、不安に駆られて吐き気を催す現象などは、一度経験してしまうとなかなか忘れられないのだ。

ほらやっぱり。こいつも信用に値しない。そう分かった時、安堵さえする。

よかった、信用してなくて。よかった、好きにならなくて。私は幸せになれないと思う。