春なんて関係ない

伸ばしていた髪をバッサリと切った 30センチは言い過ぎでも20センチは切ったと思う。

「イメチェンしたいです」の一言で美容師にすっかり任せて出来上がった髪型を鏡ごしに見て思い出したのは、小学生の私に“かっこいい女性像”を押しつけて、美容室で勝手にベリーショートを注文し、その仕上がりを見た母の満足げな顔と、当時もロングヘアに憧れてた私の、苦々しい表情だった。これを思い出すから1番嫌いな髪型に、大人になって、みんな嫌になって、進んでやってしまった。手掛けてくれた美容師はにんまりとしながら「似合う、可愛い」とまるで本音みたいに、とりこぼすみたいに褒めてくれたが、後で見たサービスで撮って貰えるビフォーアフター写真の、ビフォーもアフターも、見慣れた子ども顔のおばさんが自信なさげに苦笑いしていた。

 

 

顔が丸いのが嫌で、重ためのボブ〜ミディアムを何年も維持してきたのにどうして今だったんだろう。久しぶりに露わになった我が輪郭は自覚していた以上に広大で恐れおののく。

美容師には「トップに動きをつければそちらに目がいくので顔がでかいのは誤魔化せる、ヘアセットは多少必要になるが慣れてしまえば苦にならない。なるべくコテを使って動きをつけること」とアドバイスを頂き「あと、パッツン前髪はださいからやめてください。」と断罪されてしまった。

中野の美容師のわりに言い過ぎ

 

 

ともかく、子供の頃以来のベリーショート、1番嫌いで、とても怖かったショートヘアは、早速会った友人たちに好評だったが、これまで自身の女性性を「さらさらな髪」「丸くて可愛らしい髪型」「大人っぽい巻き髪」「短く切りそろえた前髪」で雑に演出してきた私にとっては大冒険をしている気分 それでも、宝の地図も船もなく、地上で、髪を切る前と同じくらいぼんやりした毎日を、ただやっていくしかない

 

今日も起きた なにも食べないで自転車に乗って、電車ではすれ違う人の荷物が遠慮なしにぶつかる 足を踏まれても謝られることはない

 こういう朝は餓鬼レンジャーを聴く 

「おはようございます、2日休みありがとうございました 土日に休んですみませんでした〜混みました?ですよね、いやあ今日は頑張るんで早く帰りましょう!」思ってもいない挨拶を不完全な愛想を振りまきながら自分は大丈夫と思い込む。自立して強くて誰のこともなんとも思わないけど心から優しい 理想を突き詰めると私には女である必要がない  底意地悪さを肺で煙と混ぜる 朝にたばこを吸うと病気が治る